朱雀俳句会

 

                 主  宰  田中 春生

                 名誉主宰  有山八洲彦

  師系 鷹羽狩行
  平成3年11月、有山八洲彦が奈良市で創刊。
  感性の切先と境涯の重さを底に沈め、香気ある表現を目指す。
  誌代1部1000円(見本誌謹呈)
  初心者歓迎 特に堺市・大阪狭山市で新会員募集中

 

 

 

  3・4月号 風韻抄 (春生抽)

ひとところほのぼの灯し焼芋屋     建林 成治
西を見て東へ潜りかいつぶり      田中 清司
瓦斯灯に雪降りかかる青邨忌      山口 知子
鏡めくロビーの床や初芝居       山越 桂子
風花のついとつういとはぐらかす    山本 幾乃
焼芋の大きな方をゆづり合ふ      かざみ 漣
金閣の金にさそはれ笹子鳴く      北川たみ子
銃身の艶美しき狩の宿         關  茂子
食卓に置く風呂吹きの湯気ふたつ    定師みき子
菰を巻くときをり城を見上げては    土田 善子
梅探る南斜面を足まかせ        中田 瑞穂
川涸れて奇岩怪石睨み合ふ       西川 孝子
道問ふにマスクの人を選びけり     細井三重子
子を乗せて仕事始のトラクター     今西眞佐男
玻璃越しの日ざし浴びをる二日かな   岸野 春子
空港にハンドベル澄む聖夜かな     奥山 百合
大将は上方訛蕪蒸           犬塚 智子
声あげて母呼びし夢寒もどり      田中 和子
絡み合ふパソコンケーブル去年今年   北村 士守
白杖にかからぬ氷柱顔を打つ      増井 英夫

    3・4月号 句味抄出              田中 春生

  鏡めくロビーの床や初芝居    山越 桂子
 劇場ロビーの磨き込まれた床。新年の着飾った観客の姿が鏡に映しだされるかのように、はっきりと見えていることだろう。ロビーの床だけを描き出すことにより、新年の観劇の人々の華やぎと心の弾みが伝わってくるところが秀抜。「鏡」の語から化粧・服飾などへと連想が広がるからといえよう。


  風花のついとつういとはぐらかす 山本 幾乃
 一片の風花を目で追いかける作者。あるとき速度を増し「つい」と流れたかと思うと、まるで気が変わったかのように「つうい」と向きを変えて、ゆっくりと舞い上がるのある。その動きは見ているものの予想をはぐらかすかのようだ。意思をもつような風花の気ままな動きが、いきいきと伝わって来る作品。


  金閣の金にさそはれ笹子鳴く   北川たみ子
 金閣寺での笹鳴き。まだ大気は冷たいものの、春の明るい陽射しに輝きを増す金閣。陽射しの明るさに誘われたように鳴く鶯。あたかも金閣のまばゆい金色に惹かれて鳴いた、としたところに詩の世界が立ち現れる。華麗な金閣の「金」を強調し、取り合わせることにより、京の雅が鳴き声にまで感じられるようだ。


  食卓に置く風呂吹の湯気ふたつ  定師みき子
 湯気を立てている、あつあつの風呂吹大根の皿が二つ。それが今まさに食卓に置かれた瞬間が描かれている。この料理の良さは、食べると一気に体が温まるような熱さである。その特長を目に見えるかたちで表しているのが、それぞれの皿から豊かに立ち上る湯気。風呂吹の皿を二つというのではなく、二つの湯気を置くとしたところに実感がこもる。


  銃身の艶美しき狩の宿      西川 孝子
 その用途を考えると武器からは残酷な想像しかできないが、機能に徹した道具として一種の厳しい美しさを感じとることもできる。ここで詠まれているのは猟銃の鋼鉄の艶の美しさ。さまざまのものが雑多に置かれているであろう部屋のなかで、銃身の無駄のない姿とその輝きが独特の美を放っているようだ。


  川涸れて奇岩怪石睨み合ふ    西川 孝子
 水嵩が減ることで、一層大きく姿を現した渓谷の大岩。獅子の形や奇怪な形をした岩が渓谷の両岸にそそり立っているのだ。そして互いを睨み付けるかのような迫力。「睨み合ふ」という擬人化の表現にも、対象が奇岩怪石である故に無理がなく、荒涼とした渓谷の様子がダイナミックに伝わってくる。


  道問ふにマスクの人を選びけり  細井三重子
 道を教えて貰うときに、マスクの人を選んだところが面白い。マスクの人を選んだ理由を推測するのが楽しいのである。まず避けるのは、恐そうな人。マスクの人は、ちょっと弱そうな感じがするのと、健康に気を使う心遣いの細やかな印象を受けるからであろう。


  子を乗せて仕事始のトラクター  今西眞佐男
 いつもは学校の子どもも、まだ冬休み。お正月気分のままトラクターに乗せてもらい、戸外へ出るのを楽しんでいるのだろう。作者も子どもとの会話を楽しみながら運転していくことに、喜びを感じているに違いない。仕事始のめでたさが明るく詠まれている。


  空港にハンドベル澄む聖夜かな  奥山 百合
 聖夜のハンドベル演奏が空港で行われている。その清らかな音が、空港の広くて天井の高い空間に響きわたっているのである。ともすると、場所を明示することが余分になることが多いのだが、「空港」という現代的で硬質な場所が活かされている佳句である。


  声あげて母呼びし夢寒もどり   田中 和子
 夢の中で久しぶりに出会えた母。作者は気づいて貰えずに必死になって呼びかけたのだろうか。あるいは母の助けを得ようと大声を出す夢だったのかも知れない。どちらにしても、果たされることなく終った切なさが「寒もどり」に象徴されている。


  絡み合ふパソコンケーブル去年今年 北村 士守
 パソコンの周辺はモニター、プリンター、電源などなど多種のケーブルが絡みあっている。そんな現代の風景を元にして、虚子の名句「去年今年貫く棒の如きもの」と対比すると面白い。原初的な棒に対して、現代の軽佻浮薄さや複雑さへと思いが広がっていく。

  花の滝    田中春生    「朱雀」2018年3・4月号

春生添削例 (右=原句 左=添削句) 11・12月号、1・2月号手毬集・朱雀集より