朱雀俳句会

 

                 主  宰  田中 春生

                 名誉主宰  有山八洲彦

  師系 鷹羽狩行
  平成3年11月、有山八洲彦が奈良市で創刊。
  感性の切先と境涯の重さを底に沈め、香気ある表現を目指す。
  誌代1部1000円(見本誌謹呈)
  初心者歓迎 特に堺市・大阪狭山市で新会員募集中

 

 

 

  9・10月号 風韻抄 (春生抽)

大いなる鳥の形に夏の雲        かざみ 漣
羽蟻のめぐる洛中洛外図        北川たみ子
里山の線路の錆びて葛の花       關  茂子
指先で軽く開きて夏暖簾        田中 清司
蟬時雨頭蓋一時明け渡す        山口 知子
先頭はすでに天界鰯雲         山本 幾乃
風天忌無人の駅に忘れ物        湯浅 芳郎
日本の景に青田のなかりせば      清水 若子
佇めば父母在すかに青田道       末田 咲子
嬉々として撃ち合ふ二人水鉄砲     建林 成治
山道を磐座までと木下闇        土田 善子
酒蔵のふるまひ水や鬼貫忌       中田 瑞穂
水打つや通天閣の足もとに       濵上  聡
吊り橋をわたる夫婦や夏霞       平尾 徹美
命名の文字に力や青田風        細井三重子
撫子の生駒颪になびき癖        鍋野美智子
言ひ出せぬままのひと言髪洗ふ     犬塚 智子
蜩や時に栞をはさむかに        北村 士守
かなかなに囲まれ夫と山の道      小林 冴子
隅つこが好きな幼子夏座敷       茂中 和子

    9・10月号 句味抄出              田中 春生

  里山の線路の錆びて葛の花    關  茂子
 線路の周辺が葛で覆われている様は、しばしば車窓から眺める風景である。レールは完全に錆びることはなく、列車の車輪と接する個所は輝いているのだろうが、錆の目立つ線路。その錆に地方の過疎化など、衰退の気配が象徴されているかのようだ。それを知ることもなく葛の花は美しく咲き続けている。


  指先で軽く開きて夏暖簾     田中 清司
 格式ばった老舗というのではなく、お馴染みの飲食店に気軽に立ち寄った場面か。夏暖簾の軽快さや材質感が、作者の所作によってさりげなく伝わってくるところがよい。この軽やかな情感が涼やかさを大切にする季節そのものの情感につながっている。


  蟬時雨頭蓋一時明け渡す     山口 知子
 耳を聾するような蝉の声。他の音どころか、他のことを感じたり考えたりもできなくなってしまうほどの大音量なのである。それを頭の中が蝉の声に占められてしまったと表現した句。誰しもが感じることを身体の部分を用いることで、飛躍がありながらもよく伝わる作品となっている。


  先頭はすでに天界鰯雲      山本 幾乃
 空に広がる鰯雲。頭上からはるか先まで続いているのである。そのはるか先を眺めていると、天の奥に達しているかのように見えたのである。それを「天界」のものとなっている、と断定することで一層の広がりをもった空間が目にみえるようだ。


  日本の景に青田のなかりせば   清水 若子
 これこそが日本の風景だ、というのはどんな風景だろうか。海近くならば白砂の浜と木々の緑、内陸ならば一面にひろがる青田か。あらためて国際的な観点から、日常に見る青田の価値を見直している作者。単に米を収穫するだけでなく、素晴らしい多くの価値があることがさりげなく提示されている。


  嬉々として撃ち合ふ二人水鉄砲  建林 成治
 「嬉々として撃ち合ふ」と読み始めて、思わずエッと驚かされる。最後に、「水鉄砲」と分かって安心。それと同時に、一気に情景が立ち上がってくるところが魅力。単にあとから種あかし、という俳句の常套的な手法だけではないところに注目した。


  酒蔵のふるまひ水や鬼貫忌    中田 瑞穂
 伊丹の酒造家に生れたとされるため、酒との取り合わせで詠まれることが多い。「ふるまひ水」と酒ではなく水とするところに、ちょっとした意外性が生じ、楽しい句となっている。こころづかいも加わって、秋暑の中、さぞ美味な水であろうと想像させられる。


  水打つや通天閣の足もとに    濵上  聡
 大阪は浪速区、「新世界」の路上に打ち水をしているだけのことだが、「通天閣の足もと」で俄然精彩を放つ句となった。地から足を広げて踏ん張っているような通天閣の姿が彷彿とする。「足もと」と擬人化が活きるのも、庶民的な通天閣への親しみ故か。


  撫子の生駒颪になびき癖     鍋野美智子
 「なびき癖」とすることで、時間の奥行を感じさせるが、可憐な撫子の姿が鮮やかに目に浮かぶ。それは「生駒颪」と関西人にとって親しみやすい地名が含まれているからである。日常のささやかな情景から季節のうつろいの手応えを感じさせる作品。


  蜩や時に栞をはさむかに     北村 士守
 形のないものに栞をはさむことは、まず不可能。ところが、時の流れに蜩の声が栞としてはさまれるのである。栞という薄く軽い小片と儚げな蜩の声とが照応している。それ故に、やや強引ともいえる詩的な飛躍が遂げられているのだ。


  隅つこが好きな幼子夏座敷    茂中 和子
 帰省した家族の中の幼児か。広い座敷の中央をのびのびと使えば良いものを、隅っこを好んで一人遊びしているのだろう。恐らく隅の方が守られているような安心感がするのだろう。幼児の習性をまっすぐに叙することで、夏座敷の情景が鮮やかに伝わる。
 

 

  穴惑    田中春生    「朱雀」2017年9・10月号

春生添削例 (右=原句 左=添削句) 3・4月号、5・6月号手毬集・朱雀集より