朱雀俳句会

 

                 主  宰  田中 春生

                 名誉主宰  有山八洲彦

  師系 鷹羽狩行
  平成3年11月、有山八洲彦が奈良市で創刊。
  感性の切先と境涯の重さを底に沈め、香気ある表現を目指す。
  誌代1部1000円(見本誌謹呈)
  初心者歓迎 特に堺市・大阪狭山市で新会員募集中

 

 

 

  11・12月号 風韻抄 (春生抽)

涼しさや幅二尺なる行者橋       北川たみ子
星月夜をんなひとりの旅鞄       關  茂子
青空をしつかり被り夏帽子       田中 清司
青岬バイク大きく傾けて        山口 知子
秒針の音のたしかに台風裡       山本 幾乃
背に確と地球の熱り流れ星       かざみ 漣
挨拶は鎌で交して稲を刈る       今西眞佐男
高速道すいすい走り秋立つ日      清水 若子
稔り田や猿と鹿との足の跡       定師みき子
膝の子にむかしむかしと月を待つ    末田 咲子
野の花にかがめば螇蚸肩に乗る     建林 成治
白木槿京都町家の通し土間       土田 善子
天平の塔見ゆる田の水落す       中田 瑞穂
蝉時雨ステンドグラスの乱反射     平尾 徹美
見違へる程の顔立ち日焼の子      細井三重子
クロゼットのドレス畳みて避暑終る   奥山 百合
利尻へと水脈の翼や夏の航       野村香代子
秋天や組体操の完成す         犬塚 智子
結論を少し急ぎてビアホール      石脇 幹也
一瞬に天と地つなぎ稲光        小林 冴子

    11・12月号 句味抄出              田中 春生

  涼しさや幅二尺なる行者橋    北川たみ子
 行者橋は京都白川にかかる有名な石橋。千日回峰行を達成した行者が入洛して最初に渡る橋だったのが名の由来とか。欄干も手摺もない、簡素な美しい姿の小橋である。宗教の精神性につながる簡素な美が、橋の幅だけを具体的に示すことで伝わってくる佳句。


  青岬バイク大きく傾けて     山口 知子
 二輪車の特性として、曲がるには内側に車体を傾けることとなる。速度が速いほど、カーブが急なほど大きく傾けねばならない。ハンドルを切るだけの四輪車とは異なる、全身を使った操作になる。それ故に、進む方向を決める動作に、意志的な力強さが感じられるのだ。「青岬」によって青春性が薫り立つ。


  秒針の音のたしかに台風裡    山本 幾乃
 台風の目の中に入ると、今までの風雨の音が嘘のように静まるときがある。閉め切った部屋の中で息をひそめるように台風を過ぎるのを待つとき、時が止まったような錯覚にとらえられる。しかし、静寂のなかで大きく響く秒針の音が、時の流れを確かに伝えてくるのである。微妙な感覚が巧みに捉えられている。


  背に確と地球の熱り流れ星    かざみ 漣
 大地に寝転んで夜の空に向かい合っているのだ。昼間は太陽に照らされていた大地。その熱が背中に感じられるのである。地面に残る熱を「地球の熱り」と表現することで、天体の観察の場面が、宇宙の広がりの中に置かれた人間の存在を感じさせる。


  挨拶は鎌で交して稲を刈る    今西眞佐男
 お互いに鎌を持つ手を軽く揚げるだけの挨拶。ことさらに言葉にしなくとも通じる長年にわたる、親密さなのである。時間の余裕のあるときは話し込むこともあるだろうが、収穫期を迎えて何かと慌しいせいもあるに違いない。稔り田が広がる農村の生活のなにげない一齣が、しっかりと伝わってくる作品である。


  稔り田や猿と鹿との足の跡    定師みき子
 水を落した田に残る動物達の足跡。その形から猿や鹿のものであることがはっきりと分かる。里に下りてきては農作物を食い荒らすようになった動物達。彼らにとっては、丹精込めた田と野原の区別もないのだろうか。田に入る者のみが詠める発見のある作品。


  膝の子にむかしむかしと月を待つ 末田 咲子
 膝の上に座らせて、月の出を幼子と待つひととき。じっと待つことに飽きたり、眠ったりしないようにと昔話を語ってやっているのだ。幼子との平和な充足したひととき。昔話を子に語るという伝統的な営為が、月見という行事をより深いものにしているようだ。


  見違へる程の顔立ち日焼の子   細井三重子
 プールや海など戸外の活動で日焼した子ども達。日焼けしたことで、彫りの深い顔立ちになったのだろう。それを「見違へる程の顔立ち」と大袈裟に表現したところが、何とも楽しい。日焼だけでなく、活発な夏の成長による変化もあるに違いない。


  クロゼットのドレス畳みて避暑終る 奥山 百合
 旅先にドレスを用意すること自体、優雅な時間を想像する。この句、かなりの期間ドレスを備えてあったことから、一層贅沢な生活を想像する。華やかな避暑地での生活に名残を惜しみつつ、都会へ戻ろうとする「今」が、所作を通して鮮明に定着されている。


  利尻へと水脈の翼や夏の航    野村香代子
 北海道の利尻島への航路。旅の高揚した気分が伝わる作品である。そんな気分が鮮明に伝わるのは、「水脈の翼」という、形状からも無理のない卓抜な表現。翼に乗って憧れの地へと近づいて行く心情が、利尻島への挨拶にもなっている作品である。


  一瞬に天と地つなぎ稲光     小林 冴子
 稲光を天地を繋ぐものと捉えたところが見事。俳句が「認識の詩」と言われることを如実に示している作品である。はるかに離れている天と地とが、一瞬に繋がれる不思議さ。自然現象のダイナミックな力強さが大きなスケールで詠まれている作品である。

 

  おん祭    田中春生    「朱雀」2017年11・12月号

春生添削例 (右=原句 左=添削句) 7・8月号、9・10月号手毬集・朱雀集より